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岡山地方裁判所 昭和42年(ワ)287号 判決 1969年5月13日

原告 中国電力株式会社

被告 株式会社大阪有線放送社

主文

被告は原告に対し、別紙目録<省略>記載の電柱ならびに腕金から同目録記載の妨害工作物を除去し、これを原告の架設線との距離一メートル、訴外日本電信電話公社の架設線との距離六〇センチメートルをそれぞれ下らないよう離間距離を保持するようしなければならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因として、

「一、原告は別紙目録記載の電柱ならびに腕金(本件電柱、腕金ともいう)を所有し、これに配電線を架設し、電気を通じ、需要家に電力を供給することを主たる業務としている。

二、被告は右電柱ならびに腕金に、右目録妨害工作物欄記載の電気工作物を架設し、有線音楽放送事業を行つている。

三、電気工作物の設置については、電気事業法第四八条通商産業省令第六一号により、危険防止等の目的で、電気工作物設置に関し厳守すべき技術基準が定められている。右基準によれば、原告の架設線との離間距離は一メートル、原告と共架している日本電信電話公社(電々公社ともいう)の架設線との距離は六〇センチメートルを要することになつているのに、被告が無断架設した右電気工作物は右技術基準に違反するものがほとんどである。

四、被告は原告の本件妨害物除去請求に対し、昭和四二年三月九日付書面をもつて、妨害物を自ら除去することを約定した。

五、よつて、原告は被告に対し、所有権若しくは右合意に基づき、本件電柱ならびに腕金から前記妨害工作物を取り除き、被告の架設物が前記離間距離を保持するようにすることを求めるため本訴に及んだ。」

と述べた。

被告訴訟代理人は本案前の答弁として、「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、

「一、本訴請求原因は、原告は別紙目録記載の電柱および腕金の所有者として、被告が右物件に付設した同目録記載の工作物の除去を求めるもので、所有権に基づく妨害排除請求権を行使するものにほかならない。

二、しかるに、原告と共架契約を締結した訴外吉田滋司は、本訴に先きだち、昭和四二年四月、被告に対し、原告の被告に対する右妨害排除請求権を代位行使して、有線電気通信設備撤去請求の訴を提起し、岡山地方裁判所昭和四二年(ワ)第一八四号事件として同庁に係属中である。従つて、右代位権行使の債務者の地位にある原告は、右妨害排除請求権を行使しえない状態にある。よつて、本訴は二重訴訟禁止の規定に触れ不適法であるから却下されるべきである。」と述べ、

本案の答弁として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

「一、請求原因一の事実中原告が電力供給を主たる業務とする株式会社であることは認め、その余は不知

二、同二の事実は認める。

三、原告主張の技術基準は抽象的、一般的に定められているのであつて、右規定違反が直ちに事故を発生させるものではなく、右基準を設けた趣旨に違反せず、かつ具体的危険を伴わないかぎり有線を架設することは認められるべきである。」と述べ、抗弁として、

一、被告は有線電気通信法第三条による届出をして、本社のある大阪市のほか新潟、福岡、金沢、名古屋、四日市、松坂、徳島等の各市に支所を設け適法に有線音楽放送業務を営んでいる。

二、本件電柱が原告の所有であるとしても、公共物である道路上に電柱を建設しうるものは、原告および電々公社だけである。他の業者がそれぞれ独自の電柱を建設することは道路行政上繁雑であり、国民経済上有害であるばかりでなく、その美観を害するから許されないのである。従つて、独占的立場にある原告および電々公社は具体的な危険の発生しないかぎり、その所有する電柱を、利用する必要のある第三者に使用させる義務がある。現に原告と電々公社は互いにその電柱を利用し合つているほか、交通信号機、火災報知機、警察電話線等の架設をそれぞれ許している。そして、電々公社は音楽放送業者が公共上その電柱を利用する必要のあることを認め、被告に対し、岡山市内においてもその所有電柱に放送用弱電線の添架を許すに至つた。右の次第で、原告は被告に対しその電柱の利用を拒否する自由を有しないのに、訴外吉田滋司に対し共架を許しながら被告に対し一方的に拒否してきたのは、明らかに権利の濫用というべきである。また、原告は被告にその電柱を利用させる義務があるから、電柱の利用により具体的な危険のある場合にその危険を排除するため、被告に対し、離間距離の保持その他の適切な作為を求める権利のあることはもちろんであるが、一切の設備の除去を求めるのは明らかにゆきすぎであり、権利の濫用にほかならない。

よつて、原告の本件工作物除去請求は権利の濫用であり許されない。」

と述べた。

原告訴訟代理人は抗弁に対する答弁として、

「被告は昭和四二年二月二六日から同年六月初旬までの間に、原告に無断で、本件妨害工作物を設置したものであり、しかも、それは法定の技術基準に違反し公共の危険を招くおそれがあつた。原告は中途右設置行為を知り被告に付設行為を中止しこれを除去するよう要求したところ、被告はその非を認め除去を約しながら、一方ではこれを無視して違法な付設行為を継続したのであるから、被告の権利濫用の抗弁は全くの言いがかりにすぎない。」

と述べた。

証拠<省略>

理由

一、先ず本案前の答弁について考えてみるのに、成立に争いのない乙第一、二号証によれば、訴外吉田滋司は原告および電々公社と、岡山市内の一部の電柱につき、原告らの承認した方法により有線音楽放送用の弱電線を架設することを内容とする添架契約を結び、放送設備を架設して有線音楽放送業を営んでいたところ、被告が右添架契約済みの電柱に、法定の離間距離を無視し放送用電線を無断架設し音楽放送を開始し、吉田の右音楽放送設備の安全を妨害したとして、昭和四二年四月原告らに対し有する添架契約上の電柱を安全に保持使用させるべき債権を保全するため、原告らの電柱所有権に基づく妨害物撤去請求権を代位行使し、若しくは音楽放送設備者独自の妨害排除請求権に基づき、被告に対し右無断架設電線撤去等請求の訴を提起し、岡山地方裁判所昭和四二年(ワ)第一八四号事件(前訴ともいう)として係属中であることが認められる。

ところで、原告が本訴を提起したのが昭和四二年六月一四日であることは本件記録中の訴状に押された受付印により明らかであるが、成立に争いない甲第一、三号証、証人河本克正の証言によれば、原告は昭和四二年三月二日および同年四月四日被告に対し無断架設物件の撤去を厳重要求し応じない場合は法的措置をとる旨通告していることが認められ、本訴提起に先きだち吉田から前記代位権行使に着手した事実の通知を受けたこと、若しくは代位権行使の事実を知つてことさら本訴を提起したことを認めうる証拠は何もないから、本訴提起当時代位の目的である権利の処分行為の制限は生じていなかつた。しかも、本訴提起後前訴は放置されたままで真剣に訴訟の進行が計られた形跡がないばかりでなく、前記認定事実によれば、吉田が添架契約によつて取得した債権は、電柱の一部に音楽放送用の電線等を架設することを内容とするものであつて、原告ら所有者が自らまたは第三者をして電柱を別途使用することをさしとめる権利を有するものではなく、そのような請求権のないことは被告の主張するところでもある。たとい被告の無断架線が法定の離間距離を守つていないとしても、そのために吉田が音楽放送業務のさしとめをうけるなどして業務遂行に支障を生じたわけではなく、同人に右債権を保全する必要もないから、吉田の右代位権の行使は不適法というべきである。若しそのような場合でも前訴で適否の判断を経たうえでなければ独自の権利行使が許されないとすれば、公共危険を伴う妨害排除の必要ある場合にも保全処分の申請もできないこととなり甚だ不合理な結果を生ずる。従つて、本訴が二重訴訟禁止の規定に触れ不適法であるとの被告の主張は採用しがたく、この点に関する被告の申立は理由がない。

二、進んで本案について考えてみるのに、本件電柱ならびに腕金が原告の所有に属することは、証人高広弘幸の証言によりこれを認めることができ、反対の証拠はない。そして、被告が本件電柱ならびに腕金に原告主張の音楽放送用電気工作物を設置して電柱等を使用していることは当事者間に争いがなく、証人高広弘幸の証言および同証言により真正に成立したと認められる甲第七号証の一ないし二〇によると、右工作物中には原告主張の技術基準に適合しないもの多数あることが認められ、これに反する明白な証拠はない。

三、よつて、被告主張の権利濫用の抗弁について判断する。

(一)  成立に争いのない乙第一三ないし第一五号証、被告会社代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第一六号証、証人加藤陽一の証言、被告会社代表者尋問の結果を合せ考えると、次の事実を認めることができ、格別反対の証拠はない。

(1)  被告は喫茶店、飲食店その他の契約店に有線による音楽放送を供給することを目的とし、昭和三九年九月従来宇野元忠の個人経営であつたのを法人組織に改めた会社であり、同四三年一〇月現在本社のある大阪市のほか全国の各都市に約一八の放送所を設け、加入契約店約二万二〇〇〇(内岡山放送所約八五〇)を有する。被告の同業者は全国に約二〇〇あり、全国有線音楽放送連合会を組織しており、被告はその有力な会員の一人である。

(2)  右事業は当初家屋伝いにブロツクごとに有線を架設する小規模な方法で出発したが、加入店の増加放送規模の拡大にともない、道路上に電柱等工作物を建て架線する必要を生じた。しかし、既存の電柱等を少しでも減少させる必要に迫られていた道路事情からして、道路管理者から有線音楽放送事業のため新規に電柱等を設け道路を使用する許可をうることは不可能であつたので、いきおい既存の電力会社および電々公社の電柱を利用し架設するほかなかつた。ところが、このようなあらたな電柱使用許可の要請に対し電柱所有者側の態度が一定せず、全国まちまちの取扱で容易に解決を見ない有様であつたため、有線音楽放送業者はひとまずこれらの電柱に無断架線して事業を開始し、その実績を背景にして電柱添架契約の締結を求める方法に出るのを例とし、被告としても同様の方法により事業の拡張を図つてきた。

(3)  このような無断架設営業が続出し、各地で混乱を生じたため、電々公社は昭和四三年五月二八日「公社柱への添架は従来公共公益上やむをえない場合または相互の施設利用の観点から許否をきめてきたが、都市における路上建柱の濫立等占有物件の増加を防ぎ道路管理に協力する見地から、有線音楽放送施設の添架についてもやむをえないものとして、公社と音楽放送業者との間に正式に契約を結び、これを認めることとする。」旨の基本態度を決定し、その旨出先機関に指示した。その結果、同四三年八月二六日被告と岡山電話局長間にも、岡山市内の公社柱につき添架契約が結ばれ、公社柱、家屋および街灯、アーケードに添架する条件で有線電気通信法第三条有線放送業務の運用の規正に関する法律第三条の規定により、郵政大臣あてに有線放送の設備および事業開始の届出をし、これを受理されている。

(4)  各電力会社のこれに対する態度は一定せず、東京、中部、北陸各電力株式会社はおおむね音楽放送施設の添架を認める方針を有し、音楽放送業者との間にある程度添架契約の成立を見ているもののようであり、被告としても、宇都宮、名古屋、高岡等の各都市において添架契約を経ているが、関西以西の各電力会社は原則として新規添架を認めない方針をとつており、その中でも原告が最も強い拒否の態度を示している。

(二)  成立に争いのない甲第一ないし第六号証、乙第一号証、証人高広弘幸、河本克正の各証言、被告会社代表者尋問の結果によると、次の事実を認めることができ、特に反対の証拠はない。

(1)  訴外吉田滋司は原告および電々公社と岡山市所在電柱の一部につき添架契約をしたうえ、前記法条に基づく有線放送設備の設置を届出で、昭和四〇年五月八日受理されて業務を開始した。

(2)  被告は岡山放送所設置を計画し、同四二年二月二六日本件電柱ならびに腕金のほか公社柱に放送設備を無断架設し営業を開始したため、原告岡山営業所長は被告に対し、同年三月二日付書面により、同月一五日までに原告所有電柱から無断架設物を撤去するよう要求した。ところが、被告は原告に対し同月九日付書面により、無断添架を詫び撤去期日の猶予を求めるとともにできうれば原告の指導のもとに添架を許されるよう要望しながら、一方では架設工事を続行し拡大したため、原告岡山営業所長は被告に対しさらに同年四月四日付書面をもつて、被告の不法行為を責め同月二〇日までに放送施設の撤去を重ねて要求したが被告はこれに応じなかつた。

(3)  原告は所有電柱の共同使用について内規を設け、会社自身の経済性、交通の安全、都市の美観、公共公益企業との協力等の諸観点を総合して許否を決定していた。右趣旨に従い、原告は電々公社と岡山市内においても共架契約を締結し、共架工事規準を設けて電柱の相互利用を計つているほか、公共性の強い警察電話、火災報知機構、交通信号機等について共架利用を認めている。有線音楽放送施設の添架については、訴外吉田との間に心ならずも添架契約をしているが、右事業は営利事業であり公共公益性の点において内規の基準に合わないうえ、電気工事の技術基準にてらし添架の余地がないという見地から原則として新規の添架契約をしない方針をとつていて、被告の無断添架に対し強く除去を求めている。

(4)  岡山市内においては、原告柱三本に対し公社柱一本位の割合で電柱が存在している。

(三)  以上認定の事実によれば、電力会社および電々公社はほとんど独占的立場にある電柱の利用について、かねて公共公益の必要上やむをえないものにかぎり電柱の共架使用を認める態度をとつてきたこと、被告ら音楽放送業者が事業を開始し維持するためには電力会社や電々公社の電柱を利用する必要があり、いきおい無断添架をして混乱を生ずることが少くなかつたため、電々公社は業者との紛争を解決し道路管理行政に協力する見地から、音楽放送線の公社柱への添架についても、公共公益に準じやむをえないものと認め正式契約をして規正するとの基本態度を示すに至つたが、原告ら電力会社はいまなおこれをなるべく認めようとするものとそうでないものとに別れ一定していないことが認められる。

しかしながら、電力会社の架設線は公社の架設線に比し高圧線があるほか用途も異り公共に対する危険度においても重大な違いがあるから、会社柱に添架を認めるかどうかの判断は、現段階においては、所有者である電力会社が公共公益上の必要と公共危険防止の見地から決定するのに任せるほかない。もともと、音楽放送事業は公共公益性の点で今なお警察消防機関の通信線と比ぶべくもないから、電々公社が音楽放送線の添架を認める態度に改め正式契約をするようになつたからといつて、電力会社に対しても当然に同様の態度に出ることを強制することはできない。従つて、電力会社は音楽放送業者に対し電柱使用を容認する義務があるとの被告主張はとうてい採用することができない。もつとも、電々公社との間に公社柱の添架契約が成立しているのに、その間にある僅かの電力会社の電柱の使用が認められないため事業の開始ができず、しかも会社柱の使用を認めても技術基準に触れ公共の危険を招くおそれのないこと明らかであるのに、電力会社が格別の理由もなく添架を認めないなど特段の事情あるときには、電力会社の電柱添架拒否が権利の濫用として許されない場合が考えられないでもない。

これを本件についてみるのに、前記認定事実によれば、被告は岡山電話局長との間に無断添架後である昭和四三年八月二六日岡山市内の公社柱につき添架契約の成立を見ていることが認められるが、岡山市内の電柱は原告柱三本につき公社柱一本の割合で存在するにすぎないこと前記認定のとおりであるから、特段の事情ある場合にあたらないことは明白であり、被告が原告の警告を無視して本件電気工作物の設置を強行拡大した態度その他前記認定の諸事情にてらし合せてみて、原告の所有権に基づく本件電気工作物除去請求が勝手にすぎ権利の濫用にあたるとはとうてい考えられないから、被告の抗弁は理由がない。

四、以上の次第で、被告に対し、所有権に基づき、本件電柱ならびに腕金から本件電気工作物を除去し、これを原告柱と一メートル、公社柱と六〇センチメートルの離間距離を保つようすること(この程度の離間距離の保持請求をなしうることは被告の明らかに争わないところである)を求める原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 五十部一夫)

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